時を重ねた扉を、新たな空間の入口として

2026.09.07

時を重ねた扉を、新たな空間の入口として

扉は、こちら側と向こう側を隔てるもの。

けれど同時に、ふたつの世界をつなぐものでもあります。

誰かを訪ねるとき、最初に手を触れ、最初にくぐる場所。
だからこそエントランスドアには、その先にある空間の思想が、静かに宿っているように思います。

この美容室の入口に据えたのは、フランスで長い時を重ねてきたヴィンテージの扉。

かつて異国の地で、幾人もの人を迎え、送り出してきたものです。
残された傷や色の揺らぎには、つくられた古さではない、時間そのものの気配があります。

その風合いを損なわぬよう、現代の建具として再び使えるようにレストア。
ヒンジやノブにも扉と同時代のものを用い、細部に至るまで、そこに流れていた時代の空気を受け継ぎました。

さらに、扉を壁面より大きく内側へ引き込むように設えることで、ひとつの建具ではなく、空間を象徴する存在として際立たせています。

この扉が表しているのは、店舗が大切にするひとつの物語です。

日常から、そっと境界を越える。
扉という結界をくぐった先に広がるのは、いつもの時間から少し離れた「異日常」。

そこで身を委ね、髪を整え、心をほどき、
心身ともに澄んだ状態で、再び日常へと戻っていく。

一陽来復。

扉を開け、また同じ扉から帰っていくその一連の所作までを、この空間の体験として考えました。

建具は、単に空間を仕切るためのものではありません。
素材や形、そこに刻まれた時間までも取り込みながら、住まいや店舗のコンセプトを具現化することのできる、ひとつの表現です。

新しい空間だからといって、すべてを新しくする必要はない。

遠い土地で役目を果たしてきた一枚の扉に、
新たな場所、新たな役割、新たな時間を託す。

時を経たものだからこそ生まれる奥行きが、
これから始まる物語の入口となっています。

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